モーツァルテウム大学留学記(宮崎若菜さんより)

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 昨年5月9日に私どもでリサイタルを開催してくださった宮崎若菜様は、その後すぐにモーツァルテウム大学修士課程に留学されたのですが、その後もお手紙やメールを重ねておりますと大変素晴らしい体験をされていらっしゃるようです。
 これから留学を考えていらっしゃる若い方々のためにブログ記事の執筆をお願いしたところ快諾いただき、留学をしてからこの1年間を振り返って文章をお寄せいただきました。今後が楽しみな優秀なピアニストの視点から書かれた、写真を交えての貴重な手記となります。
 
 
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 はじめまして。宮崎若菜と申します。1年前、東京国際芸術協会主催にてリサイタルをさせていただき、協会の方々には大変お世話になりました。そのリサイタルの一ヶ月後、オーストリア・ザルツブルグにありますモーツァルテウム大学のピアノ演奏家修士課程に合格でき、昨年秋からこの学校で学んでおります。今こうして学ぶことができるのも、昨年のリサイタルの経験があったからこそです。東京国際芸術協会の皆さま、ありがとうございました。
 さて、今回は私の留学生活について書かせていただけるとのことで、こちらに来てからの10カ月、私が経験した、間近で見たたくさんの事をお伝えしたいと思います。
 昨年10月から私の学生生活がスタートしました。大学での一週間のスケジュールは、
   月曜日・・・ピアノレッスン、ドイツ語
   火曜日・・・教育法の授業
   水曜日・・・録音技術の授業、クラス弾き合い会
   木曜日・・・ピアノレッスン、ドイツ語、音楽史
でした。また、月に1度はクラスコンサートがあったり、そのほか室内楽のレッスンやコンサートがあります。
 とにかくレッスンや弾き合い会、コンサート等、人前で弾く頻度が多く、毎週毎週がピアノづけの濃い生活です。留学前の2015年春まで仕事をしていた私にとって、この生活はとても刺激的でした。はじめは、「やっていけるのか・・・」という不安でいっぱいでしたが、私の先生は、レッスン内でストレスやネガティブな緊張感を与える雰囲気を全く出さない方で、そのおかげでこんな私でもやっていけているのだと思います。
 
 私が今師事しているゲレオン・クライナー先生はとても楽しい方で、生徒一人一人に合った「挑戦」をそれぞれに与えてくれる先生です。決して高望みをさせるのではなくて、その生徒の力量や伸びしろを見据えた上で、その新たなステップにチャレンジさせます。先生の音楽の作り方は自然体で、今後自分一人で音楽を作っていくためのたくさんのヒントを与えてくれます。
 

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(室内楽コンサート。Mozarteum Wiener Saal にて。)

 

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(学内の学生コンサート。solitär にて。)

 
 モーツァルテウム大学での授業で、ピアノ実技以外にとても魅力的な授業があります。教育法の授業です。私の在籍しているピアノ修士課程には、必修項目として教育法の授業があります。「教授法」「初級・中級者向け教材研究」「レッスン実践」「グループレッスン研究」などです。これらの授業は内容がとても充実していて、ピアノの教え方についてじっくりと学びます。
 ヨーロッパのピアノ導入教材研究やレッスンの仕方なども実践や発表をし、生徒みんなで意見を交わしながら学んでいきます。「レッスン実践」は、その名の通り、各生徒一人ずつ、自ら生徒を連れてきて20分間レッスンをし、先生や聴講の生徒からアドバイスをいただきディスカッションをする、というものです。我々はこのレッスン実践を2年間で8回行います。私の1回目のレッスン実践は昨年11月はじめでした。(こちらに来て約1ヶ月後。) とにかくものすごく緊張したのを覚えています。ピアノを教える経験はしていたものの、人前で、しかもドイツ語でやらなければならないなんて・・・「私は本当にできるのか?!」という不安な気持ちでいっぱいでした。レッスンの1週間前は胃痛を、前日は発熱(おそらく知恵熱)したりと単純な症状がたくさん出ましたが(わりとわかりやすい体質なんだなと思いました(笑))、あの時のあの緊張感は私にとってはものすごく貴重な刺激・経験でした。
 そんな初回の経験を経て、これまでにすでに4回行いました。各実践後の先生のアドバイスは本当に的確で、自分の苦手な部分などをピンポイントで付いてくるので、ものすごくためになり、やりがいがあります。
 

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(1回目のレッスン実践。)

 
 この写真の生徒は、私が留学当初(10月)から教えている生徒です。様々なご縁に恵まれて、私は現在数人のザルツブルクの子供達とピアノを学んでいます。日本の子供達との違いや、逆に共通点など、たくさんの面白い発見があります。
これは7月8日に発表会を行った写真です。
 

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(7月8日 発表会。)

 
 さて、続いて学校外でのザルツブルクでの生活などをお話ししたいと思います。
 私は今大家さんと一緒に生活をしています。おしゃべり好きな大家さんは、いつも明るく楽しく大らかな方です。何かトラブルや上手くいかないことがあっても、「しょうがないさ!それが人生!」「今日のことは寝ておしまい。明日は新しい日がくるのよ!」など、ポジティブに考えます。私はしょっちゅう小さいことでくよくよ悩みますが、そんな時も同じような言葉で励ましてくれます。何か解決するわけではないのですが、なんだかスッキリするのです。(というより、おそらく「ま、いっか。」という気持ちにさせられているのだと思います。(笑))
 
 大家さんはお料理がとても上手で、これまでに私はオーストリアの料理をたくさん知りました。
 オーストリアといえば、「ウィーン風シュニッツェル」「ターフェルシュピッツ」、甘いものだと「ザッハトルテ」「アプフェルストゥルーデル」などが代表的な食べ物かと思います。
 こちらに来て私が新たに知った料理は、「グリースノッケアルズッペ(粗挽き小麦粉(粟のようなものでした)のダンゴ入りコンソメスープ)」「セロリシュニッツェル」「カイザーシュマーレン(パンケーキを細かく切ったようなもの)」「モーンクーヘン(ケシの実ケーキ)」「パラチンケン(ウィーン風クレープ)」などです。どれも優しい味で私は大好きです。共通して思ったことは、材料がシンプルで素朴であることです。
 

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(大家さんのグリースノッケアルズッペ)

 

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(大家さんの旦那さんが作ったモーンクーヘン)

 

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(大家さん宅でのアプフェルストゥルーデルパーティ。(特徴的な緑の柄の食器は、オーストリアの代表的なグムンデン食器です。))

 
 また、ザルツブルクで四季を味わい、クリスマスやジルベスター、イースター、プフィングステン(聖霊降臨祭)など、たくさんの素敵な光景を見てきました。
 日本でのクリスマスもきらびやかで私は大好きですが、ヨーロッパでのクリスマスは格別でした。クリスマスマーケットでの華やかなたくさんの屋台、ジルベスターでのたくさんの花火、クリスマス当日の静かな夜(まさに聖なる夜)は今でも忘れられません。
 

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(クリスマス仕様の家の中。)

 

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(クリスマスシーズンのリンツァーガッセ)

 

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(イースターの日の朝、起きたら机に素敵なプレゼントが置いてありました。)

 
 私は今学校とは別に、教会の合唱団に入っています。もともと歌うことが大好きだった私にとって、毎週金曜日夜の合唱の練習はとても気持ちの良い時間です。そこで、ザルツブルクの市民の方々とたくさんお話ができたり、たくさんの聖歌を知り、歌うことができます。宗教行事の際は必ず教会にてその行事のためのミサ曲を歌うので、クリスマスやイースター、プフィングステンなどは特に間近で本物の行事を体感することができました。
 

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(クリスマスに向けての合唱の練習。 )

 
 さて、これから暑い夏が始まります。ヨーロッパの多くの人々はこの暑い夏に、海や湖に泳ぎに行くそうです。今年の夏は、私にとってこちらで過ごす初めての夏となります。ザルツカンマーグート(湖水地方)には、たくさんの大きな湖や、有名なハルシュタット、たくさんの貴族や芸術家たち(エリザベス・シシやブラームス、クリムトなど)に愛されたバードイシュル、モーツァルトの母や姉のゆかりの地であるサンクト・ギルゲンなど美しい街がたくさんあります。
 私もこれまでに一度行ったことがありますが、この夏再び行き、美しい景色を見て、その地の空気や水、雰囲気を体感してきたいと思います。
 

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(サンクトギルゲンにて。)

 

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(サンクトギルゲンにて。)

 

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(ハルシュタット。(3月の初めに行って、その日に限って雪でした・・。))

 
 新しい発見がたくさんあって毎日が刺激的な留学生活。日本の家族、恩師、お世話になっている方々、ザルツブルクの温かい人々の支えがあり、落ち着いて集中して学ぶことができています。今こうしてこの地で学ぶことができるこの環境に感謝をし、次の1年も多くの事を体験・チャレンジし、学んでまいりたいと思います。
 
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
 
 

2016年7月11日
宮崎若菜

 
 
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3歳よりピアノを始める。2012年、桐朋学園大学音楽学部を卒業し、2014年同大学研究科を修了。第10回彩の国埼玉ピアノコンクール銀賞。第3回東京ピアノコンクール大学生の部第3位。第7回エレーナ・リヒテル国際ピアノコンクール一般の部第5位。第39回長崎県新人演奏会優秀賞。ラ・フォル・ジュルネ新潟2011、2012に出演。第39回長崎県新人演奏会優秀賞。ニース夏期国際音楽アカデミー、Academie Festival des Arcs 、モーツァルテウム音楽大学夏期国際音楽アカデミーに参加し、ディプロマを取得。
これまでに三村則子、多美智子、多紗於里、山本光世、吉村真代、鶴園紫磯子の各氏に師事。
現在、モーツァルテウム大学修士課程に在籍中。
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