【コラム】2018年5月29日(火)北野裕司ピアノ・リサイタル【まもなく!】
今月末、2018年5月29日(火)に豊中市立文化芸術センター 小ホールで
北野裕司ピアノ・リサイタルを開催いたします。
リサイタルに向けての、北野裕司さんからのコラムを掲載いたします。
今回演奏される楽曲に関するエピソードのほか、音楽を始めたきっかけ、音楽家となった今感じることなど、さまざまなエピソードが載っております。ぜひご覧ください。
つれづれなるままに・・・
子供の頃、LPレコードやCDばかり聴いていた。(ついでに言うと本も今より沢山読んでいたかも知れない。)
母親が音大の声楽専攻出身で、卒業後は中学の音楽教師をしていたこともあり、家にはオペラ「アイーダ」や歌曲、そして父が母にプレゼントしたベートーヴェンのシンフォニー全曲などのレコードがあり、その多くをむさぼるように聴いていた。
CDも出はじめの頃は一枚一枚が高価だったのだが、「半永久的に擦り切れない」という当時のうたい文句を良いことに、何度も繰り返し聴いたものだ。
幼少期から様々なジャンルの音楽を聴き、惚れ込んだことは、私にとってその後音楽家を目指すことになった第一のきっかけであり、そのような環境を作ってくれた両親には感謝してもしきれない。
年月を経て、音楽を生業としている現在は、逆に腰を落ち着けてCDやDVDを鑑賞することはあまり無くなってしまった。
もちろん日々のレッスンやコンクール審査等で沢山の素晴らしい演奏にふれているし、音楽が生活の中心を占めていることに変わりはないのだが。
現在、唯一音楽鑑賞に時間が割けるのは、本務校以外の仕事先へ車で向かう時ぐらいだ。
そしてその時間は私にとって、録音を通じて偉大な先人たちの業績を再発見する、実に貴重なひとときなのである。
所有する録音は、音楽家として決して多いとは言えないのかもしれない。
しかし、限られた時間の中で聴く音楽は、いきおい限られた者とならざるを得ない。
そんな中で私が最近よく車中に携行するのは、エミール=ギレリスの弾くベートーヴェンのソナタだ。
とりわけ第27番と第30番が収録されている一枚が私のお気に入り。
この両曲のそれぞれ最終楽章のパッセージひとつひとつに込められた美しさとやさしさ!
そこで音たちはのびやかに歌い、舞い、とまどい、音楽に奉仕する。
私は以前からこのような演奏があり得ると漠然と考えていたのだが、それが形を取って眼前に現れた時の感動をどう表現したらよいのだろうか?
のびやかで優美であるが、無論彼のタッチに芯を失ったようなあやふやさはない。
かつてネイガウスやギレリスに教えを受けた私の恩師、ネータ=ガヴリーロヴァ女史と共にレッスンで目指した音作りの、究極の形の一端がそこに見られると言ってはいけないだろうか?
さてベートーヴェンのソナタ第31番、第32番である。
今回のリサイタルで取り上げるこの二曲は、「座右の銘」とでも言うべき音源が自分の中でさっと浮かばない。(今までにそれほど沢山の録音を聴いたわけではないと、おことわりしておく。)
31番については、なるほど、若い頃よく聴いていたグルダの第1楽章は大変美しかった。
だが32番は?私は自分の弾く曲の音源をあまり積極的には聴かないタチなのかも知れない。
ピアノ・ソナタというジャンルにおける、ベートーヴェンの総決算ともいうべき作品であり、多くの名人による名演がなされていることを疑ってはいないが、それでもあえてその演奏を聴いていないのだ。
この曲を弾くにあたっての私の原風景は、モスクワ・スヴォロフスキー並木通りのアパートで師匠と一対一で対峙し、師匠の感性を通してベートーヴェンの音楽に入り込んで行った記憶だ。
その時の素直な気持ち、そして師匠の音楽を思い起こしながら、巨匠の解釈とはまた違った私なりのベートーヴェンをお届けすることができれば幸いである。
演奏会詳細
2018年5月29日(火)北野裕司ピアノ・リサイタル
時間: 19:00開演(18:30開場)
料金: 全席自由 一般2,500円 学生2,000円
出演:
北野 裕司 Yuji Kitano, ピアノ
兵庫県立長田高校卒業後ロシアに渡る。モスクワ国立音楽院ピアノ科及び同大学院において、エレーナ=リヒテル教授やピアニストのネータ=ガヴリーロヴァ女史よりロシアの伝統的なピアノ奏法であるネイガウス流派の薫陶を受ける。ホロヴィッツ記念国際ピアノコンクール第3位入賞(1位なし)。現在は関西を拠点に活動している。大阪音楽大学准教授、日本ピアノ教育連盟関西支部運営委員。
リスト:バラード 第2番 ロ短調
ブラームス:間奏曲 変ロ短調 作品117の2
ブラームス:2つのラプソディ 作品79
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 作品110
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
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