【インタビュー】2019年6月15日(土)篠村友輝哉ピアノリサイタル
2019年6月15日(土)に東京・日暮里サニーホールコンサートサロンで篠村友輝哉ピアノリサイタルを開催いたします。リサイタルに向けて篠村友輝哉さんにインタビューいたしましたので、ご覧ください。
・今回のリサイタルに向けての抱負を教えてください。
音楽の背景には、精神の静寂があります。それは、生の演奏会でこそ、より強く感じることができます。音楽の精神の静けさと、そこにいる全ての人の「気」が音楽に集中することで生まれる静けさ。そうした静寂を、聴衆の皆様と共有できたとき、そこに無言の対話を感じることができます。その対話には、直接の言葉による対話以上に、深いものがあります。今回の演奏会でも、皆様と共に静寂に耳を澄まし、そのような対話が生まれればと願っています。
・演奏される曲の聴き所などを教えてください。
今回のプログラムには愛や死という、音楽において最も多く表現されてきたであろう概念が凝縮されています。
まず、個人的に思い入れ深いブラームスの晩年の作品集から、3つの間奏曲作品117。3曲1つ1つが繊細でかつ、確かな重みを持っています。第1曲にはブラームスの深い優しさを感じます。聴く者の心の傷を大きなもので包み込んでくれるような愛があります。第2曲は叫びたいのだけれども叫べない、内包するエネルギーは大きいけれどそれが外に出ていきそうで出ていかない、行き場のない悲しみを感じます。中間部の慈愛もブラームスの真骨頂。そして第3曲は陰鬱で、絶望の淵を這うような作品。しかしこれもやはり内包するエネルギーには濃密で強いものがある。これはブラームスの晩年の最大の魅力かもしれません。また、これらの作品は、第1曲において顕著ですが、主旋律が外声ではなく内声で歌われることが多く、これもブラームスの内面性を象徴しているようで心惹かれます。
先にこのブラームスと最後のリストを選び、間に何を入れるかだいぶ悩みました。ブラームスもリストも、重い、絶望感に満ちた作品ですから、今回は対照的に少し肩の力を抜ける、心安らぐ作品を挟もうと思い、グリーグの作品から特に幸福感や愛を感じる3曲を。叙情小曲集からの「春に寄す」は、まだ寒さの残る中の春の訪れ。澄み切った空気と自然への愛を感じます。「トロルドハウゲンの婚礼の日」は、妻ニーナに贈った躍動感溢れる作品ですが、なかでもト長調の中間部のどこか切ない懐かしさが心に染み入ります。最後は歌曲のピアノ編曲である「君を愛す」、これも妻ニーナに贈った作品です。人間の愛をストレートに歌い上げた、大変情熱的な作品です。グリーグなどの北欧の音楽には、素朴と洗練が同居する独特の魅力がありますね。
そして最後のリストの「葬送」。これはリストの作品の中でも内面性の強い作品ですが、壮絶なるドラマを感じます。重厚な序奏に始まり、沈黙のち聞こえてくるバスの嘆きのテーマがあり、叙情性たっぷりの部分があり、勝利のような雄渾な楽想があり…叙情性たっぷりの部分と言った個所は、「悲しげに」と書かれていることもあるからか、故人の回想と解説されているのを目にしますが、私は人間的な愛や官能を感じます。そして、勝利のような雄渾な部分で最高潮を迎えますが、ここでリストがしばしば用いる減7の和音でそれが引き裂かれるのです。絶望の響きに変わり、嘆きのテーマが慟哭となって回帰し、最後に天から一筋の光が見えたかに思われますが、やはり闇に引き戻される。
それぞれの作品の世界、そして全体に通底している愛や死の匂いを感じていただければと思っております。
・あなたにとって音楽とは何ですか。
人生の最大の喜びであり、苦しみでもあり…音楽に限りませんが、表現は、苦しみなしには生まれません。そんなに苦しいならやめればいいじゃないかと言われそうですが、おそらく表現者は、それでも表現せずにはいられない、内面的な葛藤を抱えているのだと思います。私ですら多少なりとも苦しみを感じているのですから、作曲家のそれは計り知れないほど深いものなのだと思います。
音楽をするということは、すなわち音楽とは何かを問い続けるということです。協会の会報での連載コラムにも書いているように、私はよって音楽に精神的に救われた経験を多く持っています。音楽によってしか、救えない苦しみがあります。音楽のない人生は考えられません。でもその一方で、本当に音楽が人のためになるのだろうかという思いも持っています。音楽に触れなくても幸せな人生を送る人はいるでしょうし、音楽を聴いても何も感じない人もいるでしょう。
一方では音楽の可能性を信じ、一方ではそれを疑う、あるいは限界があるということを知っているということ。この矛盾と表現する苦しみがあればこそ、音楽をする喜びもまた深くなるのです。
演奏会詳細
2019年6月15日(土)篠村友輝哉ピアノリサイタル
時間:15:30開演(15:00開場)
料金: 全席自由 2,500円
出演:
篠村 友輝哉 Yukiya Shinomura, ピアノ
桐朋学園大学卒業、同大学大学院修士課程修了予定(2019年3月)。桐朋学園表参道サロンコンサートシリーズ、大学ピアノ専攻卒業演奏会などに出演。桐朋ピアノコンペティション第3位、熊谷ひばりピアノコンクール金賞及び埼玉県知事賞、東京ピアノコンクール優秀伴奏者賞など受賞。かさま国際音楽アカデミーにてかさま音楽賞。東京国際芸術協会会報にてコラムの連載など執筆活動も行っている。ピアノを寿明義和、岡本美智子、田部京子の各氏に、室内楽を川村文雄氏に師事。
プログラム:
ブラームス:3つの間奏曲 作品117 第1曲 変ホ長調、第2曲 変ロ短調、第3曲 嬰ハ短調
グリーグ:叙情小曲集より「春に寄す」 作品43-6 「トロルドハウゲンの婚礼の日」 作品65-6
グリーグ:「君を愛す」(自作の歌曲によるピアノ小品集 作品41より 第3曲)
リスト:詩的で宗教的な調べ S.173より 第7曲「葬送」
チケットはまだお求めいただくことが可能です。コチラからご注文下さい。
-
前の記事
【インタビュー】2019年5月25日(土)山口芽依パーカッション&ヴィブラフォン ソロリサイタル 2019.03.25
-
次の記事
【インタビュー】2019年6月15日(土)島津幸子コンクール入選記念&還暦記念メゾソプラノリサイタル 2019.04.15