【インタビュー】2024年6月29日(土)佐藤史子&伊藤裕子デュオリサイタル~命を紡ぐ音楽~
2024年6月29日(土)に東京・日暮里サニーホールコンサートサロンで「佐藤史子&伊藤裕子デュオリサイタル~命を紡ぐ音楽~」を開催いたします。リサイタルに向けて佐藤史子さん、伊藤裕子さんにインタビューいたしましたので、ご覧ください。
インタビュー
今回のリサイタルに向けての抱負を教えてください。
佐藤さん:私にとって今回は5年ぶりのリサイタルとなります。今回デュオで共演してくださる伊藤裕子さんとは2017年にウィーン国立音楽大学マスタークラスで一緒になってからのご縁です。マスタークラスの参加者は現役の音大生や音大卒後間もない方がほとんどの中、少し大人びた(?)伊藤さんと私、年齢が近いことや、仕事や子育てとの両立といった環境面でも共通することがあり、同じような境遇でも頑張っている人がいるということにとても勇気づけられました。
2020年に予定していたリサイタルがコロナの影響で延期となり、その時私はコロナ病棟に勤務していたため、正直ピアノどころではないといった心境でした。ピアノを続けるモチベーションも失われ、このまままた音楽から離れてしまうかもしれない、というような気持になっていたところ、伊藤さんに励まされ、恩師の黒岩先生に支えられ、何とか継続してくることができました。
そんな伊藤さんが2022年、突然大病を抱えました。彼女は一時全てを失いかけましたが、どん底のような状況から、今自分にできることをやる、と少しずつ自分を取り戻され、そこから並大抵ではない生きる気力と行動力で、現在もひたむきに音楽と向き合っています。私たちは音楽という共通点の他に、それぞれの立場から死生を深く考える経験を重ねてきており、その考え方や気持ちの面でも共感・共有できることがたくさんあります。それが音楽に通ずる部分もあり、今回は、そんな伊藤さんと一緒に演奏ができることをとても嬉しく光栄に思っています。
伊藤さん:史子さんとの出会いは、実はそんなに昔ではなく2017年、こちらの協会で支援して頂いたウィーン国立音楽大学のマスタークラスでのことでした。周囲は若い学生さんたちばかりの中、私たちは歳が近く、すぐに意気投合しました。それでもその後頻繁に連絡を取り合うわけでもなく、年始や誕生日などたまに連絡をする程度でした。 それが私の病気をきっかけに、看護師である史子さんが私に寄り添ってくれ、また音楽という共通のテーマがあったことから今回のコンサートに至りました。人生という同じ舟にのって、同じように過去の歴史に思いを馳せる時間を共に過ごすことができ、またそれらを聴いて頂ける演奏の場を頂戴し、本当に幸せに思います。
演奏する曲の聴き所などを教えてください。
佐藤さん:私は、ソロではラヴェルの「水の戯れ」とドビュッシーの「喜びの島」を演奏します。どちらも19世紀後半から20世紀初めに活躍したフランスの作曲家であり、その音楽は従前より音の幅が広がり、更に個性的、開放的、発展的になっていきます。それに伴う音色の色彩もより豊かで魅力的なものです。フランス音楽と比較すると、デュオで演奏するモーツアルトは、音符が少なく一見シンプルに感じるようにも思えますが、繊細さや正確さ、様々な歌声や楽器を想像させるような音の変化など、演奏には高度な技術が求められます。35歳と短い生涯であったモーツァルトですが、その音楽には才能に溢れた豊かな感性が散りばめられています。伊藤さんのソロはショパンの「ノクターン」と「舟歌」です。ショパンもまた39歳という若さで亡くなっています。情感豊かな作品でピアノの詩人といわれるショパンですが、その人生は結核を患い重篤な状態に陥ったり衰弱したり、不安定な健康状態に左右されるものでした。伊藤さんはこれまでの音楽活動を通して「自分にはショパンが合っている」と自身とショパンの人生を重ねて、ショパンと深く向き合っています。
それぞれの音楽家たちが身を削って後世に遺してきたその意味を私たちなりの音で紡いでいきたいと思っています。
伊藤さん:私が演奏させて頂くモーツァルトとショパンは、表面上の知識だけでも随分タイプの違う作曲家かもしれません。それでも明るさを全面に出したいモーツァルトの、内に秘める天才ゆえの孤独、対して歴史と病気に翻弄され若くして亡くなるショパンの、闇の中にもひとすじの光を見出そうとする痛々しい孤独、どちらも今の私には少しですが感じ得るものがあります。
「孤独」という言葉はマイナスなようにも聞こえますが、人間誰にでもある感情であり、うまく向き合うことで自分らしさや自己表現に結びついていくのではないかとも思います。
あなたにとって音楽とは何ですか。
佐藤さん:何度考えても、やはり一言では言い表せないものですが、私の人生に共にあるもの、とくらいにまとめておきます。
伊藤さん:余命を言われるほどの大病を患ってしまってから、音楽への感じ方が全く変わりました。それまでは私にとって音楽は仕事でもあり、正しく解釈することや間違わずに弾くことなどを優先に考えてきた部分が大きかったのですが、病気になった自分を受け入れる過程において自問自答を繰り返し、作曲家たちが命をかけて遺してきた芸術作品に触れることの尊さ、またそれを端くれなりにも表現できる技術を持っていたこと、その価値を自分で大切にしてみようと思いました。そう思ってからは正しく間違わずに弾くことよりも、自分の人生も、この作曲家たちから続く歴史の一部であり、作曲家たちへの敬意を表す手段として楽譜に向き合い、出来るだけ彼らの思いを代弁できるような演奏を心がけるようになりました。また、言葉のない音楽だからこそ、聴いてくださる側の人の心に静かに寄り添い、その人それぞれの感覚で受け止めて頂くことができます。語りすぎず、透明に、正直な気持ちで、音に向き合いたいと思っています。
演奏会情報
2024年6月29日(土)佐藤史子&伊藤裕子デュオリサイタル~命を紡ぐ音楽~
会場:東京・日暮里サニーホールコンサートサロン
時間:19:00開演(18:30開場)
料金: 全席自由 2,500円
出演者
佐藤史子
Fumiko Sato, Piano
6歳よりピアノを始める。英国在住中、王立アカデミー音楽学校ジュニアコースで学ぶ。愛知県立明和高等学校音楽科、桐朋学園大学短期大学部芸術科卒業。卒後、看護師に転身。15年のブランクを経て黒岩悠氏に師事し看護師の傍ら演奏活動を行っている。東京国際芸術協会の助成を受けウィーン国立音楽大学マスタークラス修了。
伊藤裕子
Yuko Ito, Piano
1976年生まれ。東京国際芸術協会より助成を受けウィーン国立音楽大学マスタークラス修了。岐阜国際音楽コンクール第2位、ピティナグランミューズA2部門本選優秀賞、全日本ピアノコンクール奨励賞など受賞。2022年大病が見つかり余命が1年と伝えられるが、治療をしながら音楽活動を継続中。福井県在住。
曲目
ラヴェル:水の戯れ
ドビュッシー:喜びの島
モーツァルト:4手のピアノ・ソナタ ニ長調 K.381 K6.123a、ト長調 K.357 K6.497a,500a
ショパン:ノクターン 第3番 ロ長調 作品9-3
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 作品60
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