小西宏佳さん(マスターズFの部第1位)第10回東京国際ピアノコンクール入賞者インタビュー

小西宏佳さん(マスターズFの部第1位)第10回東京国際ピアノコンクール入賞者インタビュー

第10回東京国際ピアノコンクール入賞者インタビュー

小西宏佳 マスターズFの部 第1位

E.グラナドス/演奏会用アレグロ 嬰ハ長調 Op.46

5歳よりピアノを始める。第14回べーテン音楽コンクール全国大会にて第3位入賞。第16回、第17回日本ピアノ研究会ピアノオーディションにて横浜市長賞、及び準グランプリ受賞。第8回、第9回東京国際ピアノコンクールにて第5位入賞。第24回ショパン国際ピアノコンクールin ASIAにてアジア大会入賞。第24回大阪国際音楽コンクールにて第6位入賞。2023年にウィーンで開催されたKonzert ausgezeichneter Musiker aus Japanに出演。これまでにピアノを日髙早紀氏に師事。

本選演奏動画

Q.入賞されたお気持ちを聞かせてください。

――この度は、第1位という結果を頂くことが出来、大変嬉しく思っております。結果を見た時には信じられず、非常に驚いたというのが率直な気持ちです。実感が湧くまでに時間が掛かりましたが、沢山の方に祝福のお言葉を頂き、少しずつ実感が湧いてきたように感じております。
また、コンクールに出場し始めて1年ほど経った頃から、長い間お世話になっている先生に「いつか1位を贈りたい」という気持ちで練習を重ねてきました。「良い演奏が出来た」というご報告と共に、ベストな結果をお伝えすることが出来たこと、先生にも喜んで頂けたことが大変嬉しかったです。

Q.本選での選曲について、選曲理由、作品の聴きどころについてお聞かせください。

――私が本選で演奏した楽曲は、細かいパッセージが多かったり、非常に華やかな曲調だったりと、私自身にとっては「挑戦」の意味で取り組んだ楽曲でした。最後は、今回演奏した楽曲と、比較的得意であると思える曲調や動きがある楽曲が候補でしたが、「これまであまり演奏してこなかった曲調の楽曲に挑戦し、演奏者としてのレベルを高めたい」と思ったことがこの曲を選んだ理由です。
スペインの作曲家が作曲したということもあり、ドイツやフランスの作曲家とはまた異なる華やかな曲調が作品の聴きどころです。その一方で、調性が変化しながら進んでいくため、華やかさとは対照的な哀愁を帯びた曲調が所々で見られる部分や、最初から最後まで推進力をもって進んでいく点もこの曲ならではのように考えております。

Q.より良い音楽、演奏のために普段から心がけていることはありますか。

――私がより良い音楽のために心掛けていることは、「自分にしか出来ない演奏」について考えることです。
私は、どのような本番であっても、聴いてくださる方に「何か」を届けることが出来る演奏を心掛けてステージに立つようにしています。この「何か」は、決して「感動した」、「素晴らしかった」といったような大それた、また、必ずしもポジティブな内容である必要は無いと考えており、何かのご縁で「その時」、「その会場」で演奏を聴いて頂けるため、演奏を通じて何か感想を抱いて頂ける演奏が出来たらという想いです。
そのために、演奏する曲について学び、様々な経験を積み重ね、その上で自分自身はどのような演奏がしたいのか模索することを心掛けております。同じ楽曲であっても、演奏者によって曲の創り方は異なるため、作曲家の意思を尊重しつつ、技術、及び表現を含め、自分にしか出来ない演奏を考えていくことを大切にしております。

Q.思い出のレッスンはありますか。

――思い出のレッスンは様々ありますが、特に印象に残っているのは、先生が「ミスを気にしない」と指導してくださったレッスンです。
私は以前、ミスをすることに抵抗感を持っており、「いかにミスを最小限に抑えて演奏をするか」ということばかり考えておりました。しかし、先生が「本当に重要なのはミスをしないことではなく、ミスを感じさせない演奏が出来るかどうか」ということを要所要所で指導してくださり、「ミスを最小限に抑える演奏」から「ミスを感じさせないくらい中身の濃い演奏」を目指すようになりました。「ミス」は、演奏の完成度を考える上で最も分かりやすい指標かもしれませんが、今ではミス以上の大切なことに目を向けて音楽と向き合うことが出来るようになったと感じております。また、この考え方の変化から、演奏したいと思う楽曲の幅も広がったため、「ミスを気にしない」と指導してくださったレッスンは、思い出のレッスンの一つです。

Q.練習以外に音楽と向き合うためにしていることがあれば教えてください。

――練習以外で音楽と向き合うために私がしていることは、フィギュアスケート観戦です。
フィギュアスケートでは、様々な楽曲が用いられているため、新たな楽曲を知ることが出来たり、音楽に合わせた表現方法を学ぶことが出来たりとピアノに通ずることが多いと感じております。実際に演奏している際、曲調が変化する場面において、フィギュアスケート選手のある場面の表現を思い出し、動きの緩急や表情といったことを参考にさせて頂くことが多いです。

Q.今後の意気込みをお聞かせください。

――この度頂いた第1位という結果は大変嬉しいものでしたが、収穫と同時に反省も残った本番でした。この結果に満足せず、今後はこの結果や経験を糧にして、研鑽に励みたいと考えております。
そして、私はこれまで先生をはじめ、家族、友人、大学の教授、同僚の方々等、非常に沢山の方に支えて頂き、また応援して頂いてピアノを続けてくることが出来ました。今後も、支えてくださる方、応援してくださる方へ感謝の気持ちを持って一つひとつの本番を大切に、自分にしか出来ない演奏を創り上げていきたいと思っております。