TIAAフィルハーモニー管弦楽団は2009年5月、《オペラ劇場あらかわバイロイト》の創設を機に、劇場管弦楽団として組織されました。以来、年数回の劇場公演でオーケストラピットに入るほかにも、オペラガラコンサートや、オペラ抜粋・演奏会形式公演などに出演しており、それらの機会には歌手との共演だけではなく、序曲・間奏曲などの管弦楽曲や、器楽協奏曲などもプログラムに載せています。
《オペラ劇場あらかわバイロイト》は、ワーグナーのオペラを毎年公演することを柱に据え、その他にも〈魔笛〉や〈ヘンゼルとグレーテル〉など、ドイツオペラを中心に公演しています。
ワーグナーは、オペラ伴奏としては驚くほど巨大な管弦楽編成を指定し、さらに〈ニーベルングの指環・四部作〉と〈パルシファル〉においては、舞台方向に開いた屋根に覆われたオーケストラピットを持つ、バイロイト祝祭劇場の響きを想定しています。そんな劇場は日本にはありませんし、屋根のないままフル編成で弾いたら歌手の声は聞こえなくなってしまう。日本のオペラ団体がワーグナー作品を敬遠しがちな一因と言えましょう。
TIAAフィルは、サンパール荒川大ホールのオーケストラピットという狭い空間に順応する必要から、弦のプルト数を減らし、管楽器も3番奏者と特殊楽器(3番フルートとピッコロ等)を兼任させる編曲などを施して、日本における新しいワーグナー演奏の可能性を創出しました。ここには指揮者クリスティアン・ハンマー氏の精密な編曲や、弦楽器首席奏者達と共に検討を重ねた、プルトの少ない弦楽器でワーグナーサウンドを創る為の奏法・ボーイングなどの工夫が活かされており、メディア評でも非常に高く評価されています。
またTIAAフィルは、〈パルシファル〉〈ワルキューレ〉〈神々の黄昏〉などの壮大なワーグナー楽劇公演を支える傍ら、《あらかわバイロイト》のもうひとつの柱である「魅惑のドイツオペラ」シリーズによって、〈魔笛〉や〈ヘンゼルとグレーテル〉でも高い評価を得てきました。
こちらはワーグナーとは対照的に、音楽鑑賞教室などのために縮小編成で演奏されることの非常に多い作品です。TIAAフィルはこれらをフルオケで演奏し、高い評価を得ています。特にモーツァルト演奏を重ねる事で、アンサンブルの精度や純度が向上しますので、このようなワーグナーとのコントラストは、オーケストラの成長の為にも不可欠です。
2012年4月、《あらかわバイロイト》とTIAAフィル公演のほとんどを指揮して絶大な指導力を発揮している、ドイツのオペラハウス歴30年のベテラン指揮者、クリスティアン・ハンマー氏が音楽総監督(Generalmusikdirektor)に就任しました。またオーケストラも目下、一般社団法人化を目指して準備しています。
通常、日本のオーケストラはシンフォニーコンサートの開催が活動の中心で、オペラやバレェの伴奏をするときも、それぞれの興行団体から依頼された「外注公演」がほとんどです。
しかしTIAAフィルは、もともとドイツオペラを伴奏するために生まれたオーケストラです。雄大なワーグナーの音楽と歌とのコラボ、という貴重な体験に支えられたアンサンブル感覚やサウンド指向によって、日本のプロオーケストラの中で独特な位置を占めながら、成熟していきたいと願っております。
今後はさらに、オペラ体験を生かした演奏会活動、定期演奏会、音楽鑑賞教室などを始めとするアウチリーチなどにも、活動の幅を広げていく予定です。
2012年6月現在